過労死を防ぐ
過労死の原因となる「業務による過重な負荷」について確認します。
(1)過労死の定義
◆業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
◆業務による強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
◆死亡には至らないが、これらの脳心臓疾患・心臓疾患・精神障害
(2)業務上疾病とは
業務遂行性(事業主の支配下・管理下にある。仕事をしている最中)と業務起因性(災害の原因が業務)で業務上/業務外が判断されます。
【業務起因性3つの判断要素】
①労働の場に有害因子が存在していること
工場における化学物質、建設現場における著しく暑い労働環境、著しく長い労働時間、パワハラがある
労働環境、腰に負担がかかる作業方法など
②健康障害をおこすほどの有害因子にさらされたこと
「有害因子の量」と「有害因子にさらされた期間」
③発症の経過や病態が医学的に見て妥当であること
(3)労災請求の手続き
療養補償給付(必要な療養の給付)、休業補償給付(傷病の療養のため労働することが出来ず、賃金を受けられないときに給付される)、遺族補償給付など
(4)脳・心臓疾患の労災認定基準
恒常的な長時間労働などで疲労が蓄積⇒血管病変等が自然経過を超えて著しく増悪⇒その結果、脳・心臓疾患が発症。
時間外労働が45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まります。
脳・心臓疾患とは、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、心停止、大動脈解離等です。
【認定基準】
改正前:発症前1か月におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月あた
り80時間を超える時間外労働が認められる場合、業務と発症との関係が強いと評価。
例:発症前4か月における1か月当たりの平均時間外労働が85時間
令和3年改正:上記時間に至らなかった場合も、これに近い時間外労働を行った場合には
「労働時間以外の負荷要因」の状況も十分に考慮し、業務との関係が強いと評価できる
ことを明確にした。
☆労働時間以外の負荷要因
◆勤務時間が不規則・・・拘束時間が長い、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い、
不規則な業務・交代制業務・深夜業務など
◆事業場外の移動を伴う業務・・・出張の多い業務、その他事業場外における移動を伴う業務など
(疲労回復できないため)
◆心理的負荷を伴う業務・・・精神的緊張を伴う仕事、業務量変化、職種職務変化、対人関係トラブル
◆身体的負荷を伴う業務
◆作業環境・・・温度、騒音など
厚生労働省「精神障害の労災認定 過労死等の労災補償Ⅰ」
(5)精神障害の労災認定基準
◆認定基準
①うつ病などの認定基準の対象となる精神障害を発病したこと
②業務による強い心理的負荷がかかっていたこと
(発病前おおむね6か月の間におきた業務による出来事)
③業務以外の心理的負荷や個体側の要因により発病したと認められないこと
◆「業務による心理的負荷評価表」
業務による心理的負荷の強度が強・中・弱になる具体例が示されています。
「強」と判断された場合に②業務による強い心理的負荷があったと認められます。
◆労働時間を加味せずに「中」と判断されても、恒常的に長時間労働がある場合には「強」とする。
「強」となる例:転勤後新たな業務に従事し、その後、月100時間程度の時間外労働を行った。
厚生労働省「精神障害の労災認定 過労死等の労災補償Ⅱ」
◆以下について著しいものは総合評価を強める要素として考慮される。
・仕事が孤独で単調となった、自分で仕事の順番・やり方を決めることができなくなった、自分の技能や
知識を仕事で使うことが要求されなくなった。
・騒音、温度、湿度など職場環境の悪化。
・職場の支援、協力がなされていない。
◆長時間労働そのものも、精神障害の原因となる出来事として評価される。
「強」となる例
①発病直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働を行った。(極度の長時間労働)
②発病直前の2か月間連続してひと月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った。
③発病直前の3か月間連続してひと月あたりおおむね100時間以上の時間外労働を行った。
※上記の時間数は目安であり、この時間数に満たなくとも、心理理的負荷が強と判断されることもある。
◆令和2年改正:パワーハラスメントを追加
令和5年改正:カスタマーハラスメントを追加
厚生労働省「精神障害の労災認定 過労死等の労災補償Ⅱ」
(6)まとめ
時間外労働が45時間を超えると発病リスクが高まっていき、80時間に近い長時間労働では労働時間以外の負荷要因とも相まって脳・心臓疾患が発生しています。
「仕事内容の変化」などに長時間労働、支援がなく孤立した人間関係、上司等からのパワハラが心理的負荷となり、精神障害が起こっています。
サインや予兆が出ていることが多いので、職場の管理職や経営者は、日頃からリスクを十分理解し、具体的な対策を実行し、食い止めることが求められています。